2010年に史上初めて5つの文学賞を取ったシンハラ語の小説に'කන්දක් සේමා'(山のような私)という小説がある。作者は人気作家、スミットラー・ラーフバッダ(සුමිත්රා රාහුබද්ධ)。この小説は、まだ20代の主人公ヌーパー(නූපා)が結婚ブローカーを通じて写真一枚で50を過ぎた日本人男性すみかわ・まさや(සුමිකාවා මසායා)との結婚を決め、日本に嫁ぎ(新潟県三条市)、多くの危機的な葛藤を乗り越え、バラバラな二人が向き合う物語である。
日本行きの一因となる背景について、次のようにヌーパーは語る。
නීගතාවට පාර පෙන්නුවෙ ප්රේමදාස මහත්තයා. එතකොට ප්රේමදාස මහත්තයා අගමැති. බත්තරමුල්ල කොස්වත්ත හන්දියෙදි කතරගම රූමතිය ගැන, ප්රේමලතා මනම්පේරි සහෝදරිය ගැන කියනකොට රැස්කකා හිටපු සෙනග නිසොල්මන් වුණා. ඇලඩින් මාමට කරාබු දෙක දීලා මාමේ මේ කරාබු දෙක අම්මට ගිහින් දෙන්න කියලා කිව්වෙ වෙඩිවැදිලා ශරීරෙ බාගෙක පණයමින් තියෙද්දි. ප්රේමදාස මහත්තයා කිව්වා ත්රස්තවාදය මුලිනුපුටා දමන්න තමුන්ට කතිරය ගහන්න කියලා. (同上、p.6)
「新潟への道を示してくれたのはプレーマダーサだ。当時、プレーマダーサは首相だった。バッタラムッラのコスワッタ交差点でミス・カタラガマについて、そう、プレーマラター・マナンペーリについて話し出すと、そこに集まった聴衆は身動きしなくなった。彼女は銃で撃たれ、体から力が半分抜け落ちながらも、アラディンおじさんにピアスを渡し、『おじさん、どうかピアスをお母さんに渡してください』と言った。プレーマダーサは(JVPの)テロリストを根絶やしにするためにどうか1票をと訴えた」
1971年の人民解放戦線(JVP)の反乱が政府軍に鎮圧された時、1970年4月の新年祭りのミス・カタラガマであるプレーマワティ・マナンペーリ(小説ではプレーマラターと表記されているが、プレーマワティප්රේමවතිが正しい)が、JVPのメンバーに疑われ、軍人に拷問を受け、強姦され殺害されるという事件があった。当時、1960年に世界で女性としては初の首相となったスィリマーオー・バンダーラナーヤカ(සිරිමාවෝ බණ්ඩාරනායක)の政権下(1970年~77年)であった。
後に1993年5月のメーデーに暗殺された(『タミル・イーラム解放の虎』(LTTE)の犯行とされる)プレーマダーサは、1977年総選挙の時に、マナンペーリ事件の時のバンダーラナーヤカ首相の対応を批判、ジャヤワルダナ率いるUNPが選挙に圧勝、政権を握り、ジャヤワルダナ首相(1977年7月〜1978年2月)の跡を継ぎ、首相の座に就いた(1978年2月~1989年1月)。
小説では瀕死のマナンペーリがピアスをお母さんに渡すように頼んでいる。これは、JVPの騒乱の時、多くの遺体が発見されなかったため、自分が殺害されたことの証しとして、遺品としてピアスを渡すように頼んでいるのである。また、ピアスはお金に替えられる装飾品なので、命乞いの意味もあろう。
さて、類似した文章がシンハラ語新聞ディナミナ(Dinamina)2012年4月10日版(http://www.dinamina.lk/manchu/art.asp?id=2012/04/10/mpg15_1)にある。 この記事では、妹に形見として渡すように頼んでいる。
“අනේ.... මාමේ මගේ කරාබු දෙක මං දුන්නා කියලා අම්මට දෙන්න. නංගිට දෙන්න කියලා.මේ මගේ පූරුවේ කළ පවක් වෙන්න ඇති මාමේ....මම කවුරුත් එක්ක තරහා නැහැ කියන්න මාමේ”
「お願いですから、おじさん、ピアスを私が渡したと言ってお母さんに持って行ってください。妹にあげてと伝えてください。おじさん、前世で犯した罪のせいでこうなってしまったに違いありません。誰かのことを憎んだりしていないって伝えてください、おじさん」
マナンペーリは殺されようとしている原因を明らかに銃弾を撃ち込んだ相手に求めるのではなく、自分の過去世の因果のせいでこうなったと言うのだ。輪廻転生と結びついた因果応報の考え方だ。意識的にしろ無意識的にしろ過去世において犯したかもしれない自己の過ちに現在の不幸を帰すというこの考え方は今の日本人にはないだろう。
現在、東京で公開中のヒンディー映画『恋する輪廻 オーム・シャーンティ・オーム (ॐ शान्ति ॐ)』(2007年)も、生まれ変わりにより因果応報的に恋愛と復讐が完結し、不幸がハッピーエンディングとなる物語である。
さて、ピアスをプロットに入れたシンハラ語ドラマに『ピアス』(අරුංගල්, Arungal)がある(ネットで視聴可能)。弟の教育のために盲目の姉が自分のピアスを質に入れてお金を借り、やがて弟はバイオリンのコンクールで優勝するという物語である。このドラマは2010年に様々な賞を取り、盲目の少女を演じたウマーリ・ティラカラトナ(උමාලි තිලකරත්න)は最優秀助演女優賞を取った。因みに彼女は幸福の科学制作の『ファイナル・ジャッジメント』(2012年)にも出演している。
